源内をAWSで動かすといくらかかるか——構成別コスト試算
源内(GENAI)をAWSで動かす際の月額コストを、RAGの有無・S3 VectorsかOpenSearch Serverlessか・WAFの要否で構成別に試算します。

目次
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「源内、うちでも使えそうだけど、結局AWSでいくらかかるの?」
そういう質問を受けることが増えました。デジタル庁の公式資料には「商用利用できます」と書いてあっても、具体的な月額コストまでは載っていません。導入検討が「良さそう」で止まってしまい、稟議や予算要求に進めない、という声もよく聞きます。
この記事では、実際にAWS上でGenUベースの構成を触っている立場から、源内を動かす構成別にAWSの月額コストを試算します。RAGの有無・バックエンドの選択・WAFの要否で、コストは10倍以上変わります。
この記事でわかること
- 源内を動かす最小構成(PoC・RAGなし)のAWS月額コスト目安
- RAGを追加するとコストがどう変わるか(S3 Vectors版 vs OpenSearch Serverless版)
- WAFを有効にする場合の追加コスト
- AWS公式の最新料金を使った試算方法と、自社で見積もる際の考え方
前提知識
- 源内AIとは何か、源内AIのコードをGitHubから読む を先に読んでおくと、構成要素の役割がわかりやすくなります
源内のAWSコストが「構成」で大きく変わる理由
源内(genai-web)はAWSのOSS「GenU」をベースにしたセルフデプロイ型のサービスです。国がAPIを運用しているわけではなく、自社のAWSアカウントに構築するため、コストは選んだ構成次第で大きく変わります。
コストの分かれ目は主に3つです。
- RAG(社内文書検索)を使うかどうか
- RAGのバックエンドにOpenSearch ServerlessかS3 Vectorsのどちらを使うか
- WAF(IP制限・地理的制限)を有効にするかどうか
本記事の数字はすべて2026年6月時点のAWS東京リージョン公式料金(AWS Price List API)をもとに試算したものです。実際の請求額は使用量・データ量によって変動するため、あくまで目安として読んでください。
順番に見ていきます。
構成①(最小構成・PoC・RAGなし)でいくらかかるか
RAGを使わず、genai-webのポータル機能とチーム管理・ExApp連携だけで動かす最小構成です。CloudFront・S3・API Gateway・Lambda・Cognito・DynamoDBが立ち上がりますが、いずれも従量課金型で無料枠が大きく、数人規模のPoCであればほぼ無料枠に収まります(詳しくはAWS公式の無料利用枠ページを参照してください)。
コストの中心になるのはAmazon Bedrockの利用料です。Bedrockはトークン単位の従量課金で、固定の月額最低料金はありません。
PoC規模の利用(月間数千リクエスト程度)であれば、この構成の月額コスト目安は$10〜40程度(約1,500円〜6,000円)です。RAGを使わないシンプルな構成であれば、この範囲に収まるケースが多いと考えています。
RAGなしでも動く構成ですが、社内文書を検索させたくなった時点で次の壁にぶつかります。
構成②でRAGを追加すると何が変わるか(S3 Vectors版 vs OpenSearch Serverless版)
源内(genai-ai-api)のRAGは、Amazon Bedrock Knowledge Baseをベースに、S3 Vectors版とOpenSearch Serverless版の2つのバックエンドから選べます(genai-ai-apiには両方のCDKスタックが同梱されています)。この選択でコストが大きく変わります。
S3 Vectors版(低コスト構成)
S3 Vectorsは低コストのベクトルストレージです。東京リージョンの料金は以下の通りです(AWS公式Price List APIで確認済み)。
| 項目 | 単価 |
|---|---|
| ストレージ | $0.066 / GB-月 |
| 書き込み(PUT) | $0.219 / GB |
| クエリ結果の読み出し | $0.01 / GB |
| APIリクエスト | $0.06 / 1,000リクエスト |
たとえば社内文書1,000件(ベクトルデータ換算で1GB程度)を格納し、月間1万回程度の検索を行う小規模な構成を試算すると、次のようになります。
ストレージ: 1GB × $0.066/GB-月 ≈ $0.07/月
APIリクエスト: 10,000件 ÷ 1,000 × $0.06 ≈ $0.60/月
クエリ結果の読み出し: 検索結果は数KB程度と小さく、月間でも無視できるレベル
合計: 月$1未満
初回のデータ投入時は書き込み(PUT)1GB分として$0.219程度が別途かかりますが、これは一時費用で毎月発生するものではありません。継続的な月額コストは1ドルを切ります。構成①と合わせても、月$10〜41程度です。
OpenSearch Serverless版(標準構成)
一方、Bedrock Knowledge Baseの標準的なバックエンドはOpenSearch Serverlessです。インデックス用・検索用それぞれ最低1 OCU(OpenSearch Compute Unit)ずつ、合計2 OCUを常時起動しておく必要があります。東京リージョンのOCU単価は$0.334/時間です(AWS公式Price List APIで確認済み)。
24時間稼働で試算すると、次のようになります。
2 OCU × $0.334/時間 × 730時間/月 ≈ $488/月(約73,000円/月)
これがOpenSearch Serverlessが「源内のAWSコストの最大要因」と言われる理由です。以前の試算(本シリーズの別記事)では月額$174〜$350程度としていましたが、今回AWS公式の最新料金で計算し直すと、この金額になりました。OCU単価は変わることがあるため、実際に見積もる際はAWS Pricing Calculatorで都度最新値を確認することをおすすめします(地味に一番大事な注意点です)。
この2 OCUという数字は、冗長化(standby replica)を無効にした開発・PoC相当の構成を想定したものです。本番運用で高可用性のためにstandby replicaを有効にすると、インデックス用・検索用それぞれの必要OCU数がさらに増え、月額コストはこの試算より高くなります。本番構成での正確なOCU数は、AWSコンソールでコレクション作成時の設定画面かAWS Pricing Calculatorで確認してください。
なお、OpenSearch ServerlessにはNextGen Collectionsという新しいコレクション種別があります。10分間リクエストがないと自動的に0 OCUまでスケールダウンする「Scale to zero」機能が使えます。ただしこれはコレクショングループという単位で明示的に設定する必要があり、Bedrock Knowledge Baseが自動作成する標準的なコレクションでそのまま使えるとは限りません。PoC・開発環境など、常時アクセスがない用途では検討する価値があります。
構成が固まったら、次はセキュリティ要件に応じたWAFのコストを見ていきます。
WAFを有効にする場合の追加コスト
自治体・金融機関はもちろん、個人情報を扱う企業、社内限定システムとして運用したい場合、ISO27001等のコンプライアンス要件がある企業など、IPアドレス制限・地理的制限が求められる場面は業種を問わず広くあります。こうした場合はAWS WAFを有効にします。ただし、genai-webのWAF実装はIPアドレス許可リスト+国制限のみで、AWS Managed Rulesは使用していないことには気を付けておきたいです(詳しくは源内AIのコードをGitHubから読むで解説しています)。
AWS WAFの料金は以下の通りです(月額固定費は全リージョン共通)。
| 項目 | 単価 |
|---|---|
| Web ACL | $5.00 / 月 |
| ルール | $1.00 / 月(ルールあたり) |
| リクエスト処理 | $0.60 / 100万リクエスト |
genai-webはCloudFront用(us-east-1固定)とRegional用(ap-northeast-1)の2つのWeb ACLで構成されます。固定費だけで$10/月(約1,500円)、IP許可リスト・国制限のルールを数個追加してもプラス数ドル程度です。月間リクエスト数が数百万件規模でも、リクエスト課金は数ドルに収まります(WAFのリクエスト課金だけで予算オーバーする心配は、まずしなくて大丈夫です)。
ここまでの3つの軸を組み合わせると、次のような表になります。
| 構成 | 月額目安(USD) | 月額目安(円換算・150円/$) |
|---|---|---|
| ①最小構成(RAGなし) | $10〜40 | 約1,500円〜6,000円 |
| ②RAGあり(S3 Vectors版) | $10〜41 | 約1,500円〜6,150円 |
| ③RAGあり(OpenSearch Serverless版) | $498〜528 | 約74,700円〜79,200円 |
| WAF追加(①〜③いずれにも加算) | +$10〜20 | +約1,500円〜3,000円 |
数字が揃ったところで、実際にどの構成から始めるべきかを整理します。
結論(自社はどの構成から始めるべきか)
RAGが不要な用途(チーム管理・ExApp連携だけで十分な場合)は、迷わず構成①から始めるのが現実的です。月$10〜40程度なら、PoC予算としても通しやすい金額です。
社内文書を検索させたい場合は、まずS3 Vectors版のRAGを検討してください。OpenSearch Serverless版との差は月額にして10倍以上(約$500 vs $41以下)です。PoC・小規模運用ではS3 Vectors版で十分なケースがほとんどです(この差を知らずにOpenSearch Serverless版から始めて驚くのはよく聞く話です)。大規模なベクトル検索・低レイテンシが必須になった段階で、OpenSearch Serverless版への切り替えを検討すれば十分です。
WAFは「アクセス元を制限する要件があるか」で判断してください。自治体・金融機関に限らず、個人情報を扱う企業やコンプライアンス要件がある企業でも該当するケースは多く、月$10という固定費の安さを考えると、該当する要件があるなら有効にしておいて損はないと考えています。逆に、そうした要件が特にない社内PoCであれば、無理に有効化する必要はありません。
まとめ
源内をAWSで動かす際の月額コストは、RAGの有無・RAGのバックエンド・WAFの要否という3つの軸の組み合わせで、$10程度から$500以上まで大きく変わります。最大のコスト要因はOpenSearch ServerlessのOCU課金で、同じRAG機能でもS3 Vectors版に切り替えるだけで10倍以上のコスト差が出ます。
本記事の数字はAWS公式の最新料金をもとにした試算であり、実際の請求額は使用量次第で変動します。まずは自社の想定ユーザー数・利用頻度を洗い出し、AWS Pricing Calculatorで構成①相当の最小コストから試算してみてください。実際のデプロイ記録・コスト実測・構成カスタマイズの知見は源内AIシリーズで随時公開しています。
参考文献
- Amazon OpenSearch Service Pricing — OpenSearch ServerlessのOCU課金体系
- Amazon S3 Pricing — S3 Vectorsのストレージ・リクエスト料金
- AWS WAF Pricing — Web ACL・ルール・リクエストの料金
- Amazon Bedrock Pricing — オンデマンド料金体系
- AWS Free Tier — 無料利用枠の概要
- Scale to zero for Amazon OpenSearch Serverless — NextGen CollectionsのScale to Zero機能
- 源内AIとは何か——インフラエンジニアがデジタル庁OSSでサービスを作ることにした理由 — 源内の概要・商用利用の前提
- 源内AIのコードをGitHubから読む——genai-webとgenai-ai-apiのAWS構成 — WAF実装・RAG構成の詳細