源内AIとは何か——インフラエンジニアがデジタル庁OSSでサービスを作ることにした理由
源内AI(GENAI)とは何か。デジタル庁が公開したガバメントAI OSSの技術構成・MITライセンス・民間活用の可能性を、実際にAWSにデプロイしているインフラエンジニアが解説します。

目次
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「デジタル庁のOSSって、自治体が使うものじゃないの?」
源内(GENAI)は2026年4月にMITライセンスで公開された政府AI基盤です。セルフデプロイ型なので、自社のAWSアカウントにそのまま構築できます。
この記事では、実際に自社AWS環境へのデプロイを進めているインフラエンジニアが、技術構成・選んだ理由・使い始める前に知っておくべきことを整理します。
この記事でわかること
- 源内(GENAI)とは何か(3行でわかる基本)
- 技術構成(genai-web / genai-ai-api)の概要
- 自前RAGや汎用LLMとの比較観点
- 民間企業が使う際に知っておくべき注意点(リージョン・コスト・ユースケース)
- TsukiOpsがなぜ源内を選んだか
「デジタル庁のOSSって、自治体向けでしょ?」という誤解
2026年4月24日、デジタル庁がガバメントAI「源内(GENAI)」をOSSとして公開しました。名前のインパクトと「政府職員18万人向け」というキャッチフレーズから、「自治体専用のシステム」と思われがちです。
ところがライセンスを確認すると、MITライセンスで公開されています。MITライセンスは商用利用・改変・再配布が自由なライセンスです。デジタル庁も「民間企業が商用サービスの基盤として使うこと」をはっきりと想定しており、公式noteでその旨を記載しています。
源内(GENAI)とは何か
まず最低限の前提を3点で整理します。
1. 政府職員向けに作られたAI基盤をOSSとして公開したもの
18万人の国家公務員が業務で使うAIポータルのコードが、誰でも使えるようになりました。対話型チャット・文書要約・法令検索といった機能を含む実装が、そのままGitHubで公開されています。
2. MITライセンス = 民間企業が商用サービスに使っていい
ソースコードの大半はMITライセンスで、自社サービスに組み込んで有料販売することも認められています。ただし、一部のLambda・CDKコードにはAmazon Software License(ASL)が適用される例外あり。利用前に、リポジトリ各ファイルのライセンス表記を確認する必要があります。「行政向けだから民間はNG」というルールはありません。
3. 「国がAPIを提供している」わけではない(セルフデプロイ型)
これが一番の誤解ポイントです。源内は「自分のAWSアカウントに自分でデプロイして使うもの」です。国のサーバーにデータを送る仕組みではなく、データは自社の管理下に置かれます。
この3点が頭に入っていれば、以降の話がスムーズに理解できます。
源内の技術構成をGitHubから読む
源内は2つのGitHubリポジトリで構成されています。
digital-go-jp/genai-web → AIインターフェース(フロントエンド+バックエンド)
digital-go-jp/genai-ai-api → AIアプリ・RAGのAPI層
genai-web(GenUベースのウェブUI)
genai-webは、AWSがOSS公開している Generative AI Use Cases(GenU) をベースに開発されています。技術スタックはTypeScript + AWS CDK。cdk deploy を実行すると、CloudFront / Lambda / API Gateway / Cognito / DynamoDB などのリソースが自動的に構築されます。
(CDKを触ったことがある方なら「あ、コマンド一発か」と思うはずです)
GenUとの主な違いは、チーム管理機能と外部AIアプリ(ExApp)との連携機能が追加されている点です。組織単位でアクセス制御できる作りになっています。
genai-ai-api(行政向けRAGのAPI層)
こちらは主にPython(コード比率約46%)で構築されたAPI層で、インフラ定義にBicepやTerraform HCLも混在しています。法令検索・文書要約・Q&Aなどの行政向けAIアプリのテンプレートが含まれています。
Amazon Bedrock上のLLMを使ってRAGを構築するための実装が揃っており、「行政向け」という名称ながら設計自体は業種を問わず流用できます。
全体のアーキテクチャ
デプロイは cdk deploy で完結します。上図は簡易的なアーキテクチャですが、相当数のリソースが作成され、完了まで約20分かかります。なお、CloudFront用WAFスタックがus-east-1に展開されるため、CDK bootstrapは東京(ap-northeast-1)とus-east-1の両リージョンで事前に必要です。
仕組みが分かったところで、「なぜ既存のLLMサービスや自前RAGではなく源内なのか」という疑問に答えます。
なぜ自前RAGではなく源内を選んだのか
「Amazon BedrockとS3で自前RAGを作ればよくないか?」という疑問は当然出てきます。実際に比較してみます。
| 観点 | 源内(GENAI) | 自前RAG | 汎用LLM API |
|---|---|---|---|
| 初期構築コスト | 低(CDK一発) | 高(設計から) | ほぼゼロ |
| マルチユーザー管理 | 組み込み済み | 自前実装 | 不要 |
| RAGテンプレート | 実装済み | 自前 | なし |
| セキュリティ設計 | 行政品質 | 自前 | SaaS依存 |
| カスタマイズ性 | 中 | 高 | 低 |
| データの置き場所 | 自社AWS | 自社 | 外部SaaS |
自前RAGに比べて源内が優れているのは、「18万人が使う本番環境として設計・検証されたコード」を出発点にできる点です。マルチテナント管理・ロールベースアクセス・セキュリティ設計が最初から組み込まれており、同じものをゼロから作ると相当な工数がかかります。
一方で限界もあります。GenUベースの制約があるためUIの大幅な変更には手間がかかります。大量バッチ処理やリアルタイム処理には向かない点も、選定前に把握しておきたいところです。
関連記事 AWS DevOps Agent とは?AIOps で運用を自動化する次世代アプローチ 源内AIと相性の良いAWS運用自動化の仕組みについて解説しています。
TsukiOpsが源内に着目した理由
TsukiOpsはAWSインフラの設計・構築を専門とするエンジニアリング会社です。源内に着目した理由はシンプルで、「構築支援の対象として技術的に成立するか」を自分たちで検証したかったからです。
公開されたコードを導入判断につなげるには、ライセンスだけでなく、構成・費用・運用条件を実装者の視点で整理する必要があります。そこで、自分たちで検証した内容を記事として残すことにしました。
現在は自社AWSアカウントへのデプロイとAmazon Bedrock Knowledge Baseとの接続をPoC(概念検証)として進めている段階です。このシリーズはそのPoCの記録であり、今後の記事で実際に手を動かして分かったことを順次公開していきます。
源内を使い始める前に知っておくべきこと
実際に手を動かして気づいた、実装者視点の情報をまとめます。
向いているユースケース・向いていないケース
源内はチーム単位のアクセス制御と「データを自社AWS外に出さない」設計が最初から組み込まれています。次のような用途にフィットします。
向いているケース
- 社内文書のQ&A・ナレッジ検索(部署やプロジェクト単位で管理したい)
- データを外部SaaSに送りたくない組織(行政・医療・金融など)
- マルチチームのAIポータルをゼロから設計せずに立ち上げたい場合
向いていないケース
- UIを大幅にカスタマイズしたい(GenUベースの制約がある)
- 大量バッチ処理(設計思想がインタラクティブ利用向け)
- Bedrockの対応リージョン外で構築したい場合
東京リージョン(ap-northeast-1)推奨
Amazon Bedrockは東京・大阪の両リージョンで利用可能ですが、東京リージョン(ap-northeast-1)での構築を推奨します。大阪リージョン(ap-northeast-3)では一部モデルがクロスリージョン推論になるケースがあり、利用できるモデルの種類も東京より限定的です。なお、AWSは現在「日本国内クロスリージョン推論」機能を提供しており、東京・大阪のみにルーティングを限定することも可能です。
GitHubのCDKをそのままデプロイした場合のコスト
genai-webをGitHubからそのまま cdk deploy した場合、CloudFront・Lambda・API GW・Cognito・DynamoDB・S3が立ち上がります。WAFはIP アドレス制限または地理的制限を設定した場合のみデプロイされます。有効にした場合は Web ACL 2つ(CloudFront用・Regional用)が作成され、Regional WAF 1つが API GW・Cognito・チーム管理APIの3リソースをまとめて保護します。固定費は$5/月 × 2 Web ACL = 最低$10/月です。
さらにgenai-ai-apiのRAGテンプレートは、Bedrock Knowledge BaseのバックエンドとしてOpenSearch Serverless版とS3 Vectors版を含みます。OpenSearch Serverless版はClassic collectionを作成し、standby replicaを無効にしたデフォルト設定でも最低1 OCUの固定費が発生します。2026年9月時点の東京リージョン単価を$0.334/OCU時間として月730時間稼働させると、約$244/月です。standby replicaを有効にする場合は最低2 OCUとなるため、RAGを有効にする前にS3 Vectors版を含む構成別コストを比較しておきましょう。
まとめ
源内(GENAI)は、政府職員向けのAI基盤をMITライセンスで公開したOSSです。「自治体専用」というイメージとは異なり、民間企業が商用サービスに使うことを想定した設計になっています。技術的にはAWSのGenUベースであり、CDKでセルフデプロイする仕組みです。
自前RAGと比べると、マルチユーザー管理やセキュリティ設計が最初から組み込まれている点が大きなメリットです。一方で、ユースケースの適合判断・WAFを含むインフラ固定費・RAGを有効にした場合のOpenSearch Serverlessコストなど、民間向けに使う前に把握しておきたいポイントもあります。
まずは GitHubのgenai-webリポジトリ の README.md を開き、全体像を確認するところから始めましょう。
参考文献
- GitHub: digital-go-jp/genai-web — 源内Web(AIインターフェース)の公式リポジトリ
- GitHub: digital-go-jp/genai-ai-api — 源内AIアプリ・RAG APIの公式リポジトリ
- デジタル庁「ガバメントAI『源内』をOSSとして公開します」 — OSS公開の公式発表(2026年4月24日)
- デジタル庁のガバメントAI「源内(GENAI)」がOSS化されたので、GenUとの差分を調べながらAWSアカウントにデプロイしてみた(Classmethod DevelopersIO) — GenUとの差分・技術スタックの詳細
- デジタル庁が政府AI基盤「源内」をOSS公開(Qiita) — MITライセンス・商用利用条件の詳細